堀江貴文氏「僕が漫画をひたすら読む理由」

堀江貴文氏「僕が漫画をひたすら読む理由」
東洋経済オンライン 1月29日 8時0分

堀江貴文氏「僕が漫画をひたすら読む理由」
マンガの重要性が増すとはどういうことでしょうか
マンガの書評サイト・マンガHONZを主宰する堀江貴文さんの最新刊『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた』では、自身の「オールタイムベスト60」のマンガを紹介しながら、マンガの読み方、マンガ家の想像力のすごさ、これからのビジネスとマンガの関係などを縦横無尽に語りつくしている。そのなかで強調しているのは、「“遊びが仕事になる時代”には、マンガの重要性がますます増してくる」ということだ。どういうことか――今回は特別に、本書の「プロローグ」から全文を抜粋して紹介する。

■「遊びが仕事になる時代」にマンガが必要なワケ

 今、「想像的知識」の時代が到来している。

 私の造語だが、言いかえると、今はまだ存在していない想像上の知識が次々に仕事を生み出し、未来をつくってゆく時代だということだ。今はまだ遊びの中にある想像的知識の中から新しく仕事を生み出していく人が、これからの時代で活躍してゆくのだろうと感じることが最近明らかに増えた。

 これからは、遊びが仕事になる時代なのだ。

 そもそも今の仕事の大半は、一昔前は遊びだった。たとえば今や世界最大とも言えるほどに巨大産業になったIT産業がそうだ。

 私が生まれて初めてパソコンを手にしたのは中学生の頃だ。1985年、茨城県つくば市で科学万博が開催された年だった。中学の合格祝いとして、親から買ってもらったのが日立のMSXパソコン「H2」だった。
パソコンを手に入れた堀江少年は

 学校から帰ってくると、深夜まで私はパソコンにかじりついてプログラミングをしていた。親には「勉強につかうものだ」「これからはコンピュータの時代になる」などと話していたが、実のところ、私はただプログラミングをするのが楽しかった。私の知的好奇心を満たしてくれる最高の遊びだったのだ。

 英数字のプログラミングをするだけで、きれいな絵を表示させたり、音楽を鳴らしたりすることができる。当時友達の間でブームに湧いていたファミコンなんてそっちのけで没頭できた。

 誰かがつくったゲームの世界ではなく、自分でゲームの世界をつくってゆく面白さに、夢中になった。コンピュータがつくりだす未来に想像が膨らみ、無機質な英数字のプログラミングの向こうに、総天然色の夢がきらめいて見えた。そうして私は、パソコンをグレードアップしながら当時の標準言語「BASIC」はもちろん、様々なマシン語を覚え、より高度なプログラミングをマスターしてゆく。

 私の遊びはその後、時価総額何兆円というIT企業の価値を支えるプログラマーの仕事になり、彼らの生み出した様々なサービスは私たちの生活をより豊かにしている。

■「遊びの中」に未来がある

 私がMSXパソコンで遊んでいた頃、ほとんどの大人はコンピュータがIT産業をつくり、インターネットで結ばれた世界中で仕事を生み出していくことを想像すらしなかっただろう。しかし結果として、私が遊びの中で見た未来は、実現した。

 カタカタとキーボードを叩いてプログラミングをしていた、MSXパソコン越しに未来を見ていた視線のまま、私は大人になって、IT企業を起業して、今も同じ目線で未来を見ている。あの頃に得た様々なインスピレーションは、今もIT産業のこれからを知る上で大切な知識になっている。

 こうした知識を、想像力をつかって描き、フィクションとして伝えることのできる作家にはいつも驚かされる。たとえばマンガの中に描かれる世界がそうだ。
『宇宙兄弟』は、もともと……

 私は自他共に認めるマンガ好きだ。マンガ好きが高じて、今はマンガ書評サイト「マンガHONZ」を主宰している。共同主宰者の佐渡島庸平さんはマンガ『宇宙兄弟』の編集者であり、作家エージェント「コルク」の代表だ。佐渡島さんは、しょっちゅう「作家の想像力にはいつも驚かされる」と話している。

 界隈では有名な話であり、佐渡島さんもイベントなどで話していることだが、宇宙航空研究開発機構「JAXA」との密接な協力関係でつくられたと思われているふしがある『宇宙兄弟』は、もともと作者・小山宙哉さんの想像から生まれたマンガだった。

■『宇宙兄弟』も作者の想像から生まれた

 『宇宙兄弟』は南波六太と南波日々人という宇宙飛行士の兄弟の物語だ。宇宙飛行士の弟・日々人を持つ兄・六太は、脱サラし、弟との幼少時代の約束を果たすべく宇宙飛行士を目指す。『宇宙兄弟』で初めて宇宙飛行士の選抜試験について知った人も多いにちがいない。国際宇宙ステーションの特殊環境を再現した閉鎖環境施設で行われた試験で受験者たちが繰り広げる奥深い人間ドラマの数々に、誰もが引き込まれたことだろう。登場人物の行動を見ながら、「自分だったらどうするだろう?」と考えてしまう。

 作中で描かれる「宇宙飛行士候補者選抜試験」は、JAXAが実際に行っているものと同様であり、正確に描写されている。しかしこれらはJAXAの職員が手取り足取り小山さんに教えたものではない。

 小山さんは宇宙飛行士について書かれた本を片っ端から読み漁り、「自分がJAXAの職員だったらどうやって試験するだろう?」と考え抜いたそうだ。小山さんは宇宙飛行士にとって重要な能力を見極めるために、想像の中でJAXAの職員になりきったのだ。そうして自分で選抜試験を考え、描いたところ、実際の宇宙飛行士候補者選抜試験に肉迫するリアリティを持った試験問題になったのだという。

 JAXAを取材したNHKのドキュメンタリーが放送されたり、新書『ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験』が出版されて、実際の宇宙飛行士候補者選抜試験の内容が明らかになってから『宇宙兄弟』が生まれたと思っていた人もいるかもしれない。しかし、実際には逆だ。

 作家の想像力が、誰にも知られることのなかった現実を描いたのだ。
「ALS」という難病も登場するが

 また『宇宙兄弟』には、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病が登場する。身体中の筋肉を動かす神経が変性し、力が失われてゆく進行性の神経疾患だ。人間は、言ってみれば筋肉の塊だ。筋肉の働きで私たちは歩き、手で作業をし、言葉を話し、呼吸をする。それらすべての筋肉が次第に衰えてゆくことで、歩行が不能となり、身体の自由がきかなくなり、呼吸筋の機能不全によって呼吸困難を発症する。10万人のうち1~2・5人がかかるといわれており、いまだ治療法は確立していない。

 作中では2人のALS患者が登場する。ひとりは伊東せりかという元女医の宇宙飛行士の父、もうひとりは六太・日々人に幼い頃から宇宙の夢を与えてきた天文学者・金子シャロンだ。

 宇宙とALSと聞けば、真っ先に思い出すのは理論物理学者・ホーキング博士だが、小山さんは「宇宙で研究するとしたらどんな病気がありますか?」と、ある医師に聞いたことがきっかけとなり、ALSを描くことになったそうだ。ホーキング博士のことは後で知ったのだという。

 そんな小山さんはある時、実際のALS患者に会って『宇宙兄弟』でのALSの描かれ方の感想を聞く機会があったそうだ。すると、症状や病気の発見のされ方など、すべてがリアルそのものだったという。そして患者からは「こうしてALSの認知が促されることで、社会での受け入れられ方が変わってくる。こんなに正しく伝わるのなら、これほどありがたいことはない」と絶賛されたという。

■これからの「知識の身につけ方」

 マンガ作家の想像によって生み出された知識が、現実で多くの人に受け入れられ、感動を呼び、未来をつくる知識になる。これは大きな驚きであるのと同時に、これからの知識のあり方、身につけ方をも示している気がしてならない。

 少し前は「マンガばっかり読んで遊んでいないで、勉強しなさい」と言われたかもしれない。しかし気づけば今、科学の最先端で起こっていることのほとんどは、昔マンガに描かれていたことばかりだ。

 たとえ今はマンガの中の遊びでも、その中のいくつかは未来の仕事になり、ビジネスチャンスになる。そうした知識は、すぐれた作家の生み出す想像的知識に触れてみなければ身につかない。

 私自身、いろんな本を発表したりメルマガで発信している物事の中で、かつてマンガに描かれていたことが実際に未来をつくっていく様子を何度も見てきた。遊びとはつまり、想像の中の知識を身につけるための頭の運動であり冒険なのだ。

 そして今、遊びと仕事の境界は失われつつある。マンガはそのことを教えてくれる格好のメディアなのだ。
堀江 貴文

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最終更新:1月29日 8時0分
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